資格を取得する目的が「日本でより良い条件で就職・転職するため」であれば、ACCAの取得を目指す必要はありません。しかしここで、「取得するべき資格がACCAかUSCPAか、はたまた違う資格か」と色々考えている方たちには、一つ考えて欲しいことがあります。
会社が採用したい人材とは?
それは、会社側の目線に立った時に、果たしてどのような人材を自分だったら採用したいか、ということです。自分が入社したい会社やチャレンジしてみたい産業という大枠の目線でも構いません。会社からはどのような人材が求められているのでしょうか?
まず人材の第一条件として、会社としては長く働いてくれて、会社の色に少しでも染まり、長期的に会社に貢献してくれることが必要です。会社を構成しているのは人であり、その人財がいなくなってしまうことは、会社にとって非常に大きな損失なのです。人が会社を成長させ、人が会社を衰退させます。会社として人を雇用するということは、一つの大きな投資でもあります。
また、その人の能力が多少低くても、すぐ不採用ということにもなりません。会社もバカではありませんので、能力が低ければ仕事を行う過程で教育し、成長させていく力は十分にあります。
第二の条件として、その人材が会社の求める人材像に一致しているかが重要になります。そこには、学歴、経験、資格、仕事に対する姿勢や考え方、給与水準など、様々な条件があり、資格とはその一つにすぎません。そして、会社によってその資格に対する捉え方はバラバラです。
海外の資格は就職に有利になるか?
例えば、ACCAを取得した人が一般事業会社(監査法人などの専門業ではない会社)に就職するとき、その人事担当者がACCAのことを理解しているかと言えば、答えは「No」です。しかし、USCPAのことは知っているのでしょうか?また、MBAがどのような資格なのかをどれだけの人事担当がわかっているのでしょうか?
非常に高い確率で、その人事担当者はACCAとUSCPAの違いがわかりませんし、それぞれの資格の中身も把握していないでしょう。なぜならその人事担当者がその資格を勉強したことがなく、また、その資格が仕事にどう影響するのかについてわかりませんし、そもそも人事担当としてそのような理解は必要ですらないのです。USCPAだろうがACCAだろうが人事担当者にとってその人の評価は大きく変わらないでしょう。
それよりも、さらに重要な第一の条件、つまり「会社に対する長期的な貢献が可能かどうか」を人事担当者は見ます。たとえACCAやUSCPAを持っていても、それを人事担当者に説明できなかったり、その会社にどのように貢献できるのかを説明できなければ、資格を持っていない人と大差ありません。また、資格というのは貢献するためのツールであり、会社から評価されるためのツールではないことを知らなければいけません。
次に、一般事業会社ではなく監査法人や税理士法人などに入社を希望する場合、会計士(や税理士など)の資格は非常に重要になります。それが日本公認会計士なのか、USCPAなのかACCAなのかによって、その会社での役割とその後のキャリアステップが決まってきます。なぜなら、資格とはある一定の知識と技術を持っていることの証明であり、専門家としての前提条件です。会計や税務の経験を積めば良いという世界ではありません。どんなに会計や税務の経験を積んだ人であっても、有資格者でない限りこの世界では専門家として認められません。
また、この専門家の業界でも一般事業会社と同様に、ACCAとUSCPAに大差はないと言えます。なぜならどちらも海外の資格であり、国内で専門家サービスを提供する監査法人や税理士法人ではそこまで重要視されていないのです。「就職に有利なのはACCAかUSCPAか」という次元の議論ではありません。ここでも、どんな貢献ができるのか、どのようなところで会社の役に立つのかが海外の資格には求められます。最近では企業のグローバル化に伴い、特定の業種や分野ではACCAやUSCPAの「資格保有者」と応募資格に明記されているケースもありますが、まだまだそのような募集は少ないように感じます。どちらもその資格のみを使って仕事をする、という環境は日本にはないと言えるでしょう。
海外の資格は無駄なのか?
このような現実がありますが、決してACCAを勉強することが無駄だということはありません。ACCAの目的はあくまでもその資格取得の過程にあり、そして専門家として生涯学習していくことに重点が置かれています。資格取得は単なるマイルストーンに過ぎないのです。
これは、会社の利害に一致しています。会社も資格を持っているからあなたを採用するわけではありません。会社に貢献できるから採用するのです。そのような会社や地域社会、さらに世界に貢献できる人財になることこそ、私たち専門家の目指す道であると思わなくてはいけません。その手段がACCAなのかUSCPAなのかは、「道」の違いです。目的の違いではありません。
時々ACCAが就職に有利か否か、USCPAが就職に有利か否かに明確に回答をしている人が見受けられますが、その議論は全くの間違いです。その議論に一つの答えを提示している時点で、その人が専門家ではないことがわかります。専門家にとって、資格は「道」です。決して、就職・転職するための道具ではないことを知らなければいけません。柔道や茶道のように、道を追求していくことこそ、有資格者の本来の生き方なのです。
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